日米安全保障条約が締結されてから、まもなく75年を迎える。長年にわたり日本の安全保障を支えてきた日米同盟だが、現在、その「老い」が問題になりつつある。
日経新聞の秋田弘之氏は、中国の軍事力の台頭そのものよりも、中国という強力な競争相手の出現によって、日米同盟が長年抱えてきた内部の弱点が明らかになっていると分析している。
問題は「軍事力・認識・意志」の3つ
日米同盟が直面している課題は、大きく「軍事力」「脅威認識」「同盟を維持する意志」の3つに分けられる。
米国の防衛産業基盤に懸念
米軍は依然として世界最強の軍事力を持っている。しかし、国防産業の生産能力には懸念が広がっている。
冷戦終結後、米国は防衛関連の製造能力を縮小してきた。一方、中国の造船能力は急速に拡大しており、潜水艦、空母、護衛艦などの建造能力でも米国との差が広がっている。
ミサイルの生産能力も課題となっている。将来、大規模な軍事衝突が発生した場合、米国が保有する弾薬や迎撃ミサイルを十分な速度で補充できるのかという問題がある。

⇒購入
日本も防衛産業と人員不足に直面
日本も例外ではない。防衛予算は増加しているものの、国内の防衛産業基盤は依然として脆弱だ。
過去20年間で、100社を超える日本企業が防衛産業から撤退したとされる。
さらに深刻なのが自衛隊の人員不足だ。出生率の低下と人口高齢化によって、防衛に必要な人材の確保が難しくなっている。
2026年3月時点で、自衛隊員は約21万8000人。1981年度以降で初めて22万人を下回り、必要とされる人員を約12%下回っている。
日米で中国への対応に温度差
冷戦時代、日米両国はソ連という共通の脅威を認識していた。そのため、安全保障上の目標を共有しやすかった。
現在も日本と米国は、中国を長期的な重要戦略課題と位置付けている。しかし、中国の軍事力と経済力が拡大するにつれて、両国の優先順位には違いが生まれている。
日本にとって特に重要なのが台湾海峡だ。日本政府は、台湾有事における米国の対応をより明確にしてほしいと考えている。
一方、米国では、台湾防衛が米国の国益の中でどの程度の優先順位を持つのかについて、明確な姿勢が示されているわけではない。
「米国第一主義」も同盟に影響
同盟を維持するためには、軍事力だけでなく政治的な意志も必要になる。
米国では、海外への関与よりも国内問題を優先すべきだという意見が強まっている。「米国第一主義」を掲げる保守派だけでなく、民主党左派からも、軍事費より社会保障や医療などを優先すべきだという主張が出ている。
日本でも人口減少によって、自衛隊の人材確保が難しくなっている。
つまり、日米両国にとって「同盟を維持するための人的・政治的コスト」が今後さらに大きくなる可能性がある。
中国も人口高齢化という問題を抱える
興味深いのは、人口高齢化が日本と米国だけの問題ではないことだ。
中国も少子化と高齢化に直面している。人口構造の変化は、中国の軍事力や経済力にも長期的な制約を与える可能性がある。
そのため21世紀の大国間競争は、若い人口を持つ新興国同士の競争ではなく、高齢化する社会同士の競争へと変化していく可能性がある。
日本は米国から離れるべきなのか
では、日本は日米同盟から距離を置き、防衛を完全に自国だけで担うべきなのか。
記事が示す方向性はそうではない。
中国、ロシア、北朝鮮という安全保障上のリスクを抱え、アジアには欧州のNATOのような集団防衛体制が存在しない。そのため、日本にとって米国との同盟は依然として重要だ。
むしろ日本が目指すべきなのは、日米同盟を維持しながら、日本自身の防衛能力と自主性を高めることだ。
米国の軍事力を抑止力の基盤として維持しつつ、日本自身も無人システムや人工知能、防衛産業への投資を強化する。
最大の問題は「改革の速度」
日本の方向性そのものは間違っていない。しかし最大の問題は、改革のスピードが人口減少と高齢化のスピードに追いつくかどうかだ。
日米同盟が75年目を迎える中、問題は中国の軍事力だけではない。
米国の防衛産業、日本の人的資源、日米間の脅威認識、そして両国の政治的意志。こうした内部の問題をどこまで解決できるかが、今後の日米同盟の持続性を左右することになる。
中国の台頭は、日米同盟を直接弱体化させているというより、これまで見えにくかった同盟内部の問題を浮き彫りにしていると言える。