日本の残業規制が変わった。「もっと働ける日本」は、私たちにとって本当に幸せなのか?
2026年9月1日から、日本の残業をめぐる行政の運用が変わりました。 しかし、これは「日本の残業規制がなくなった」という意味ではありません。
今回変わったのは、労働基準監督署による指導のあり方です。 法律で定められている時間外労働の上限そのものが撤廃されたわけではありません。
なぜ今、残業規制の運用が変わるのか
日本で生活していると、最近の人手不足を身近に感じることが増えました。
飲食店では営業時間を短縮する店があり、 宅配、介護、建設、ホテル、外食などでも人手不足が深刻になっています。
特に少子高齢化が進む日本では、働く人の数そのものが減っています。
企業側からすれば、 「人を増やしたくても増やせない」 という問題が起きています。
そこで、 「働きたい人がもっと働けるようにしたほうがいいのではないか」 という議論が出てきました。
「もっと働ける自由」は、本当に自由なのか
例えば、ある会社で人手が足りないとします。
「今月は忙しいから、あと20時間くらい残業してくれない?」 と会社から頼まれたとします。
社員が自分から、 「給料が増えるなら働きたいです」 と答えるのであれば、一見すると問題はありません。
住宅ローン、子どもの教育費、生活費、老後資金などを考えれば、 もっと働いて収入を増やしたい という人がいるのも当然です。
だから、 「残業=悪」 と決めつけることも正しくありません。
本当に重要なのは、 「その残業は本人が望んでいるのか」 ということです。
日本の会社では「自由意思」が本当に自由なのか
日本で長く働いている人なら、この問題を理解していると思います。
上司から「今日は帰っていいよ」と言われても、 周囲がまだ働いていると、 「自分だけ帰っていいのかな」 と感じることがあります。
明確に「残業しろ」と命令されなくても、 職場の雰囲気によって残業することがあります。
また、 「残業しろ」と言われなくても、 「今日中にこの仕事を終わらせてください」 と言われれば、結果として帰れなくなることもあります。
だから、 「働きたい人がもっと働けるようにする」 という制度は、 本人の自由を増やす場合もあれば、 会社側の都合で労働時間が増える可能性もあります。
「9月から月100時間まで残業できる」は正確ではない
SNSなどでは、 「9月から日本は月100時間まで残業できるようになった」 という情報が広がる可能性があります。
しかし、これは正確な理解ではありません。
現在も原則として、時間外労働には上限があります。
原則は月45時間、年360時間です。 特別な事情がある場合でも、単月100時間未満、複数月平均80時間以内、 年720時間などの制限があります。
今回変わったのは、 「45時間を超えた場合に、労働基準監督署が一律に45時間以内に抑えるよう指導する」 という運用です。
したがって、 「残業規制がなくなった」 と理解するのは適切ではありません。
私たちの生活はどう変わるのか
1.もっと働きたい人にはチャンスが増える可能性
今回の変更には、良い面もあります。
「今月は残業してでももっと稼ぎたい」 という人にとっては、合法的な範囲内で働く機会が増える可能性があります。
物価が上がる日本では、 残業代が家計にとって重要な収入になっている家庭もあります。
2.企業が人を増やさなくなる可能性
一方で、企業が新しい人を採用するよりも、 今いる社員に残業してもらうほうが簡単だと判断する可能性があります。
本来なら、 「人手不足 → 賃金を上げる → 人を採用する」 という市場の力が働くはずです。
しかし、 「人手不足 → 今いる社員にもっと働いてもらう」 となれば、企業にとっては楽でも、労働者にとって必ずしも良い結果とは限りません。
3.残業できる人とできない人の格差
独身で若い会社員なら、 「今月は残業してもっと稼ごう」 という選択ができるかもしれません。
しかし、子育てをしている人には保育園や学校のお迎えがあります。 家族の介護をしている人もいます。
つまり、 「もっと働ける自由」 を増やすだけでは、本当の意味で働き方の自由が増えたとは言えません。
本当に必要なのは、 「働く時間を自分で選べる自由」 です。
日本は「働きすぎ」から「働き方を選ぶ社会」へ行けるのか
昔の日本では、 「長く働く=頑張っている」 という価値観が強くありました。
朝早く会社に行き、夜遅くまで働く。 上司より先に帰らない。 それが責任感のように扱われる時代もありました。
しかし、日本社会は変わりました。
共働き家庭が増え、子育てと仕事を両立する人が増えています。 男性も育児をすることが求められ、 介護をしながら働く人も増えています。
もう、 「仕事だけをする人」 を前提に会社を作ることは難しくなっています。
日本が目指すべきなのは、 「残業できる社会」ではなく「残業するかどうかを自分で選べる社会」 ではないでしょうか。
本当に怖いのは「見えない残業」
日本の労働問題で、私が特に気になるのは、 タイムカードに残らない労働です。
- 家に帰ってから会社のメールを見る
- スマートフォンで会社のチャットを確認する
- 休日に上司から連絡が来る
- 自宅で翌日の資料を作る
こうした時間は、通常の勤務時間として見えにくくなることがあります。
これからの労働改革では、 「何時間働いていいのか」 だけではなく、 「勤務時間外に会社からどこまで拘束されるのか」 という問題も重要になっていくでしょう。
私が一番心配しているのは「弱い立場の人」
転職しやすく、会社からも必要とされている人なら、 ある程度は自分で働き方を選べます。
しかし、転職しにくい人にとっては話が違います。
若い社員、非正規社員、高齢者、家族を養っている人などは、 「残業したくありません」 と言うことが難しい場合があります。
だからこそ、 「労使合意があるから大丈夫」 だけでは不十分です。
本当に本人の意思なのか。 断ったら不利益を受けないのか。 評価を下げられないのか。 実質的に強制されていないのか。
そこまで確認できる仕組みが必要です。
これからの日本では「長時間働ける人」より「生産性の高い人」が強くなる
人手不足が進めば、単純に労働時間を増やすだけでは限界があります。
日本では人口減少が続いています。 だからこそ、 「一人が長時間働く社会」 から、 「一人が短い時間でより多くの価値を生み出す社会」 へ変わる必要があります。
そのためには、
- AI
- 自動化
- ロボット
- 業務効率化
- 無駄な会議の削減
- 紙の書類の削減
- 不要な報告書の削減
などを進める必要があります。
「人が足りないから残業を増やす」だけでは、 問題を先送りしているだけかもしれません。
結局、今回の変更は良いことなのか、悪いことなのか
私は、どちらとも言えないと思います。
「もっと働きたい」という人にとっては、 働く機会が増える可能性があります。
人手不足で困っている企業にとっても、 柔軟な労働時間を使えるメリットがあります。
一方で、 会社が採用や生産性向上を怠り、 既存社員への残業依存を強める可能性もあります。
そして最も心配なのは、 「残業したくない人まで、職場の空気によって働かされる社会」 に戻ってしまうことです。
私が考える、日本の理想的な働き方
私は、 「残業ゼロの日本」 を理想だとは思いません。
残業したい人もいます。 もっと稼ぎたい人もいます。 仕事が好きな人もいます。 会社を成長させたい人もいます。
そういう人の自由まで奪う必要はありません。
しかし同時に、 「残業しない自由」 も守られるべきです。
残業する自由と、残業しない自由が両方ある社会。
そして、 働いた時間ではなく、提供した価値で評価される社会。
私は、それがこれからの日本に必要だと思います。
これから日本の会社員に起きること
今後、日本では人手不足がさらに深刻になる可能性があります。
そうなれば、 「もっと働いてください」 という会社も出てくるでしょう。
一方で、 「あなたは何時間働いたか」ではなく、 「何を生み出したか」 を評価する会社も増えていくと思います。
AIや自動化によって、 一人の社員が以前より多くの仕事を処理できるようになるからです。
そのとき、 「長時間働ける人が強いのか」、 それとも 「短い時間で結果を出せる人が強いのか」。
私は、後者の社会に変わっていくと思っています。
最後に
今回の残業規制の運用見直しを、 「日本がまたブラック企業社会に戻る」 とだけ考えるのも、 「もっと働けるようになって日本経済が復活する」 とだけ考えるのも、どちらも単純すぎます。
日本が今直面している本当の問題は、 「働く人が足りない」 ということです。
その問題を解決する方法は、残業を増やすことだけではありません。
外国人を含めて働く人を増やすこと。 女性や高齢者が働きやすい環境を作ること。 賃金を上げること。 AIやロボットを導入すること。 無駄な仕事をなくすこと。
そして、 一人ひとりが自分の生活に合わせて働き方を選べるようにすること。
私が本当に目指してほしいと思うのは、 「たくさん働ける国」ではなく、「自分の人生を自分で設計しながら働ける国」 です。
残業規制の見直しは、単なる労働時間の問題ではありません。
それは、 「日本人は仕事のために生きるのか。それとも、自分の人生のために仕事をするのか」 という、日本社会そのものの問いなのです。